京都には、「七味唐辛子」を専門に取り扱っているお店が数多くあります。その中でも、外国人観光客に人気のある七味専門店のひとつとして挙げられるのが「七味唐がらし本舗 おくむら」です。
同店は、伏見稲荷大社の裏参道入り口を少し北に行った所にあり、創業90年余りの歴史がある老舗です。写真に写っているのが三代目店主で、お客さんの好みに合わせて七味を調合するといった創業以来のサービスを今も続けている数少ない七味専門店です。
今回は、その場で七味の調合を見せてもらえたので、その様子を紹介します。
「七味唐からし本舗 おくむら」の七味
七味唐辛子は、お店ごとに使われている材料や配合の割合に違いがあるため、一口に「七味唐辛子」といっても味や風味に違いがあります。
ここ「おくむら」さんの七味は、山椒がやや強めという京都人好みではありますが、全体にバランスよく京都の中でも伏見地区特有の風味なのが特長です。
「七味」は辛い調味料と思われがちですが、同店の七味は辛みより風味重視であることから、漬物やうどんにひとふりするだけで香りが広がります。
七味唐菓子の原料
「七味唐菓子」の主になる素材は辛みの強い「一味唐辛子」ですが、「おくむら」さんの唐辛子は辛いだけではなく、唐辛子そのものに味と香りがあって、独特の風味が感じ取れます。
一味唐辛子に加える副素材はお店によって違いますが、「おくむら」さんは「陳皮(ちんぴ)」(ミカンの皮を乾燥)、紫蘇(しそ)、青のり、白ごま、麻の実、山椒となっていて、どれも代々受け継いできた厳選された原料なのです。
これが90年余り続く「七味唐からし本舗 おくむら」の七味唐菓子の原点と思えば、奥深い伝統と文化を感じます。
七味唐辛子の調合
「おくむら」さんは、「お客さんの好みに合わせて調合して販売する」というのが、今も受け継がれている創業当初からのコンセプトであるため、唐菓子好きな人はもちろん、辛いのが苦手という人でも唐菓子を少な目にすると、風味を楽しむことができます。
また、この調合は唐菓子の量で辛さを調整するだけでなく、ヒリヒリとした刺激のある「山椒」の量や、カリッとした食感の「麻の実」の量なども、アドバイスを頂きながら調整できるので、自分のオリジナル七味唐辛子が出来上がります。
以下が、この度お願いした少し辛めの七味唐辛子です。
初めに取り出されたのは、一味唐辛子と山椒を除いた5種類の副素材。これがベースで、注文に応じて一味唐菓子と山椒をブレンドして頂けます。
「少し辛め」にして欲しいと注文したので、標準の七味に比べて一味唐菓子は多目です。
この鮮やかな緑色に爽やかな香りの山椒は、新鮮な山椒の実を粉にしたもので、七味専門店ならではの一品です。これも、注文に応じて量を調整して頂けます。
配合が決まれば、一気に手際よく混ぜ合わせ。この時点で、とても良い香りが漂ってきます。
完成した七味は、しっかりとした専用のジップ付き袋に入れて頂けますので、風味が抜けないように保存できます。
七味専門店の山椒の粉
七味専門店では七味唐菓子だけでなく、一味唐辛子と山椒の粉を取り扱っているところがほとんどです。ここ「おくむら」さんでも、単品で「山椒の粉」が販売されています。
「山椒の粉は茶色?」と思っている人もいるようですが、新鮮な山椒の実は緑色で、その風味を損なわないように粉にしたのがコレ!
「ウナギのかば焼き」や「親子丼」には最高ですよ!
また、山椒の実が手に入らない季節は、この「山椒の粉」を代用して「ちりめん山椒」を炊くこともできます。
激辛海苔巻き七味やきもち
ここで、七味と海苔の風味が癖になる、とっておきのやきもちの作り方を紹介します。
1
七味と濃口醤油を用意します。
※七味の量は好みで変えてくださいね!
2
オーブントースターで餅を焼き、醤油に漬けてから七味唐菓子を絡めます。この際、餅を練るようにすると中まで醤油と七味が入り込み、「ぬれおかき」のように仕上がります。
3
もう一度、餅をオーブントースターで3分程度焼くと、醤油と七味の香りが一層引き立ちます。
4
餅が焼き上がったら、焼のりを軽く火であぶり、餅に巻いたら出来上がり。
本物の七味唐菓子とは?
七味唐辛子は、日本固有の香辛料をブレンドしたもので、その素材は薬膳にも使われるものが大半で「薬味」でもあり、料理の味と香りを高める効果があります。
中でも、唐辛子専門店の七味は厳選された新鮮な素材を使っているため、安価で販売されている「七味唐菓子」とは一線を画しています。
また、地域のよっても食文化の違いから、さまざまな「七味唐菓子」が誕生してきたのも面白いところで、おすすめの食べ方などは、購入先のお店に尋ねると新しい発見もあるかも知れません。
七味唐の歴史と三大唐菓子(三大七味)
「七味唐辛子」は「薬研堀(やげんぼり)」とも呼ばれ、1625年(寛永2年)漢方薬の調合をヒントに、江戸の両国薬研堀に「やげん堀中島」が創業して販売したのが始まりとされています。
当時は、「七色唐辛子」または「七種唐辛子」と書いて「なないろとうがらし」と呼んでいたそうで、漢方薬としての効果もある「薬味」とも考えられていたようです。
そして、京都では清水で薬やわらじを販売していた「河内屋」という茶店が、1816年(文化13年)に「七味屋」と名を改め、明治の中半に「七味家本舗」という七味専門店となったとされています。
また、長野善光寺の「株式会社八幡屋礒五郎(やわたやいそごろう)」は1736年(元文元年)勘右衛門が善光寺境内で唐辛子を売りだしたのが長野での始まりとされています。
このようにして日本特有の香辛料(七味唐菓子)が誕生し、東京の「やげん堀」、京都の「七味家本舗」、長野の「八幡屋礒五郎」が日本の三大七味と呼ばれるようになりました。
日本三大七味の特徴
「七味唐辛子」とはその名が示すように、主原料の「唐辛子」に6~7種類の副原料を加えた日本独特の調味料(ミックススパイス)で、7つの異なった味の素材を混ぜ合わすことから「七味」というのですが、8種類以上の素材をブレンドしているものもあり厳密な定義はありません。
よって、日本三大七味と呼ばれる七味唐菓子でも、それぞれが個性を持った味や香り、色などの特徴となって表れています。
東京「やげん堀」
浅草の「やげん堀」の七味は、唐辛子、焼唐辛子、黒胡麻、山椒、陳皮、けしの実、麻の実のブレンドで、辛さに深みを出し、香り高い山椒や胡麻の風味が特徴です。
京都「七味家本舗」
清水の「七味家本舗」の七味は、唐辛子、山椒、麻の実、白胡麻、黒胡麻、青のり、青紫蘇のブレンドで、唐菓子以外は香り高い素材を使い、香りを立たせています。
長野「八幡屋礒五郎」
善光寺の「八幡屋礒五郎」の七味は、唐辛子、山椒、生姜、麻の実(麻種)・胡麻・陳皮・紫蘇のブレンドで、生姜と善光寺で採れる「麻種(おたね)」という麻の実の甘い部分を使っているのが特長で、辛味と香りの調和がとれた独特の味わいがあります。
まとめ
七味唐辛子の地域的な特徴を、東京は辛め、京都は風味、長野は個性などといったことを聞いたりしますが、京都でも、地域によってそれぞれ特徴があります。
どれも、日本ならではの上品な味わいと食をそそる香りがあり、優劣を付けるとはできません。あえて順位を付けるとするなら、個人の好みの順番ということになります。
強いて言うなら「七味唐がらし本舗 おくむら」のように、好みに合わせて調合して頂ける七味専門店は少なく、希少価値があるのではないでしょうか。
詳しくはこちらのWebサイト⇒「七味唐がらし本舗 おくむら」
アクセス
住所:京都府京都市伏見区深草稲荷中之町47
TEL/FAX : 075-641-2293