京都のお盆|千本ゑんま堂で「お精霊迎え」

京都では、お盆に御先祖様が里帰りするとされていて、お迎えすることを「お精霊迎え」と呼んでいます。

御先祖様の精霊を「そしょうらいさん(おしょらいさん)」と呼び8月13日がお迎えの日で、8月16日が送り出す日になります。

13日の午前中は、お墓にお参りとお仏壇のお清めと掃除。蓮の葉の上に季節の野菜や果物をのせてお供えします。午後から「迎え火」に苧殻(おがら)に火を点け「お精霊」をお迎えします。

そして8月16日には玄関先などで「送り火」をたいて、御先祖様をお送りする。

これが昔ながらの「京都のお盆」の習わしです。

今では、家庭で「迎え火」や「送り火」をたくことはしなくなりましたが、お盆の初めには近くのお寺に「お精霊」をお迎えに行き、16日の「五山の送り火」でお送りするようにしています。

京都の「お精霊迎え」で有名なお寺は「六道珍皇寺」と「引接寺(いんじょうじ)」(通称:千本ゑんま堂)です。

今回は、平安京埋葬地であった「蓮台野」の入り口にある「千本ゑんま堂」を紹介します。

千本ゑんま堂

「千本ゑんま堂」は、正式名称を「引接寺(いんじょうじ)」といい真言宗のお寺です。この地は平安京三大葬送地のひとつ「蓮台野」の入り口で、あの世とこの世の境目とされています。御本尊が閻魔法王(えんまほうおう)で、像の大きさは日本最大級です。

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※「撮影禁止」ですが、お寺にお願いして撮らして頂いた貴重な写真

閻魔法王像

像の大きさは日本最大級でおよそ2メートル。高いところから見おろされると身が引き締まる。両脇に司令尊(右)と司録尊(左)。司令尊は、生前の行いをゑんま様に伝える係り。司録尊は、裁判の結果を記録する。脇には小野篁像も控えている。
京の都が火の海となった応仁の乱の為、当初の閻魔法王は焼失され、現在のお像は長享二年(1488)仏師定勢により刻まれ再現安置されています。

このお寺の迫力のある閻魔像は他で見る事は出来ません。この「ゑんま様」を見ていると、地獄の恐ろしさを身近に感じ、子供の頃は閻魔像の近くによることも出来ませんでした。

閻魔法王の役目

ゑんま様は、この世で悪行を働いた者に対して地獄で懲らしめる怖い存在だと思っていたのですが、実はあの世とこの世の境目で人間を見守る裁判官のような存在だったのです。

それは、人間を三悪道には行かせたくない為に、怒りの表情で、地獄の恐ろしさを語り、嘘をつく者は舌を抜くと説いているのです。

このように聞くと、慈悲深さがあるがゆえ人間を脅していたという心理が窺えます。

お精霊(おしょらい)迎え

今年も、母親を連れて「お精霊迎え」です。出かけたとたんに大雨で引き返そうと思いましたが、母親が行く気満々でしたので、仕方なしに手をつないでお参りに行くことにしました。

「ゑんま堂」では、受付のお姉さんが母親に傘をさしてくれて優しくエスコートして頂きました。

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お精霊(おしょらい)迎えの順序

  1. 本堂を入ってすぐのところで、水塔婆にお迎えする先祖の戒名を書いてもらいます
  2. 本堂前の燭台に1本のローソクを供えます
  3. 大香炉に線香を立てて、水塔婆を煙でいぶします
  4. 本堂の閻魔法王に手を合わせ、先祖の里帰りをお願いします
  5. 本堂の北側を通り「地蔵供養池」の手前で朱印を頂きます
  6. 地蔵供養池で水塔婆を流します
  7. 水塔婆が流れるのを見送りながら、釈で地蔵像に水をかけてお祈りをします
  8. 最後に不動明王が祀られている「鐘つき堂」で鐘をつきます

献灯

燭台にローソクを供える「献灯」には、ローソクの炎が不浄を燃やし、魔を除いて周囲を清める働きがあり、そして心の闇を明るく照らす象徴とされています。

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水塔婆をいぶす

ゆっくり立ちのぼる線香の煙には、故人と「心を通い合わす」という意味があり、故人に話しかけたりするなど、心で交流するための「お香」として使われます。そして、自分自身を清め、周囲を清めるという働きもあります。

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地蔵供養池

水塔婆は、お地蔵さまに見守られながら、ゆっくりと流れていきます。

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迎え鐘

毎年、盂蘭盆(うらぼん)にあたって精霊を迎えるために撞くので「迎え鐘」といいます。この鐘は、古来よりその音響が十萬億土の冥土にまでとどくと信じられ、亡者はそのひびきに応じてこの世に呼びよせられるといわれています。

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六道能化

地蔵供養池のほとりには、「六道能化」と書かれた1枚の立札があります。そして、後の1行には「今世後世能引導(こんごせのういんどう)」とあり、これは「現生も来世もよく引導したもう」といった意味で輪廻転生を示唆しています。

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お精霊迎えに行くと、いつも「地獄や天国は本当にあるのか?」といったことが頭に浮かびます。父親は「死んだら終い!」が口癖でしたから死後の世界を信じていなかったのでしょうね。私も「死んだら終い!」と思っているので死後の世界はないと思っています。

しかし仏教の世界では「六道輪廻」という考え方があります。

六道輪廻(ろくどうりんね/りくどうりんね)とは

仏教の世界では六道といった概念があり、人は死ぬとその業によって六種類の世界に輪廻転生するというものです。

六種類の世界は「六趣」、「六界」といい、「天道(てんどう)」、「人間道(にんげんどう)」、「修羅道(しゅらどう)」、「畜生道(ちくしょうどう)」、「餓鬼道(がきどう)」、「地獄道(じごくどう)」に分けらます。

この六種類の世界、読めばどんな世界か検討が付きますよね。あなたなら、どの世界に生まれ変わりたいですか?

境内にある「紫式部」の供養塔

何故こんなところに紫式部の供養塔が建っているのか?

どうも彼女は「源氏物語」を書く上で、犯してはならない罪を犯し地獄に堕ちたようです。そして地獄から救ったのが、引接寺を開基したことで知られている小野篁(おのたかむら)だったのです。

小野篁は、あの世とこの世を往来する神通力を有し、昼は宮中、夜は閻魔之庁に仕えたと伝えられている人物です。そのような神通力があるから彼女を地獄から救うことも出来たのでしょうね。

紫式部と小野篁は恋仲だったのか、京都の北大路堀川を南に下がったところの西側に、紫式部と小野篁のお墓が並んで建っているのは、なかなか興味深いと思います。

紫式部の供養塔(重要文化財の多層石塔)

一重目は円形の基礎石の表面に十四体の地蔵小僧、その上の軸部に薬師如来(東面)、弥勒観音(南面)、定印阿弥陀如来(西面)、釈迦如来(北面)の四佛座像。像の横に至徳三年(1368)八月二十二日に僧円阿の歓進によって建立された旨の銘。
二重目は、四隅に柱を立て、その中に鳥居を刻んだ円形の軸部。その上には、九個の笠石を置いて、十重の塔としている。
これは二重の宝塔と十三重塔の残欠の二つを組み合わせた珍しい偶数の塔で、古来より、紫式部の供養塔と伝えられている。

まとめ

今回は、古くからの「京都のお盆」の慣わし「お精霊迎え」を「千本ゑんま堂」とともに紹介しました。

死後の世界はあるのかは分かりませんが、私たちに生を与えてくれた御先祖様は、いつも私たちの心の中で息づいています。そして、それは優しさと安らぎをもたらし、生きる勇気と力を与えてくれます。

日々、忙しくて忘れがちな自分の心。たまには立ち止まって自身の声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?

アクセス

住所

〒602-8307
京都市上京区千本通蘆山寺上ル 閻魔前町34番地

最寄り駅

京都市バス 206系統、46系統、59系統
停留所:千本鞍馬口または乾隆校前

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