建築家「武田五一」が設計した京都府立図書館の歴史と改築による近代化

Language:English

南禅寺の「三門」と古代ローマの水道橋のような「水路閣」に紅葉を見に行く予定で、岡崎の神宮道で市バスを降り、南禅寺まで歩くつもりでしたが、その途中にある京都府立図書館が気にかかったので、なんとなく立ち入ってみると、いつも満席の閲覧机がたまたま空いていたので、ついつい読書に夢中になってしまいました。

京都府立図書館が改築されてから20年が過ぎ、エントランスには、旧館に使われていた「煉瓦」をテーマにした展示物が並んでいました。

そういえば、旧館を設計したのは建築家の「武田五一(たけだごいち)」だったのを思い出し、関連する資料や本を読んだ次第です。

architect Goichi Takeda Kyoto Prefectural Library

京都府立図書館

京都府立図書館が岡崎で開館したのは1909年(明治42年)4月です。設計者は「現)京都工芸繊維大学」の図案科や「現)京都大学」に工業部建築科を創立した「武田五一」で、『関西建築界の父』ともいわれる日本を代表する建築家の一人です。

竣工当時の京都府立図書館は、レンガ総造3階建てで、閲覧室と木造4層構造の書庫からできており、美術館機能も備えていました。

それが、1995年(平成7年)1月の阪神淡路大震災によって、本館建物が深刻な被害を被ったために、1998年(平成10年)11月から2000年(平成12年)10月の約2年間をかけて改築されました。

改築の際に残されたのは神宮通りに面したファサードだけで、設計者「武田五一」の当時の作品です。

facade

建築家「武田五一」

武田五一は1972年(明治5年)11月15日、福山藩(現在の広島県福山市)の生まれです。1984年(明治27年)に帝国大学(現在の東京大学)造家学科に入学し、1897年(明治30年)に卒業しました。

卒業論文は「茶室設計」で、卒業設計の“ACADEMY OF MUSIC CONCERT HALL” は、英国の『クイーン・アン様式』を取り入れたデザインで、イメージが京都府立図書館と重なるところがあります。

『クイーン・アン様式』とは、イギリス18世紀前期、アン女王の時代に流行した建築や家具の装飾様式のことです。

建築では、シンメトリーなデザインが典型的なスタイルで、寄棟屋根が多く、屋根には八角形の塔をのせたり、玄関からつながる長いベランダやポーチを配置したりします。さらに、軒飾りやベイ・ウィンドウ(出窓)を多用する特徴があります。

その後、大学院に進学した武田五一は、在学中から妻木頼黄(つまきよりなか)の下で「旧日本勧業銀行」の設計補佐を行いました。

妻木頼黄は、辰野金吾、片山東熊とならぶ明治建築業界の巨匠であり、その補佐を務めたことで、「武田五一」の名が世間に知れ渡るようになりました。

その後、1901年(明治34年)3月から1903年(明治36年)の約3年、ヨーロッパに留学しました。イギリスでは『アール・ヌーヴォー』の提唱者”チャールズ・レニー・マッキントッシュ”ら『グラスゴー派』の影響を受け、日本に持ち帰ったのです。

『グラスゴー派』とは、”チャールズ・レニー・マッキントッシュ”など4人組の芸術集団を中心としてヨーロッパ各地からスコットランドのグラスコーに集まった建築家・デザイナーのグループです。

日本の近代建築に貢献した建築家「武田五一」は、『アール・ヌーヴォー』や『ゼツェッセション(分離派)』の紹介者として教育界にも貢献し、教育者・啓発者としても大きな業績を残しています。

主な作品は「旧日本勧業銀行本店」を初め、住宅36件、公館・会館15件、銀行・商社30件、その他社寺11件、博覧会場・公園10件、記念碑16件、橋梁20件、都市計画的なもの19件、共同浴場2件などです。

改修後の京都府立図書館

改修後の京都府立図書館は、地上4階、地下2階、延べ面積が7,480㎡です。地下1階から地上2階までが一般の来館者が利用できるスペースで、3階と4階は職員が使用する管理部門となっています。地下2階は2,100㎡もある収蔵スペースで、多くの資料が保存してあります。

所蔵資料の総数は約132万冊で、図書が約100万冊、逐次発行物が約30万冊と京都随一の蔵書数です。そして、収集した図書は基本的に永年保存(部数は原則1冊)することになっているそうです。

132万冊といっても実感が湧きませんが、「管内見学会」に参加して地下収納庫を目の当たりにすると、その資料の多さに圧倒されてしまいました。

一生かけても読み切ることのできない、先人の知恵の宝庫、ものを学ぶには人生は短いと感じた次第です。

地下収蔵庫

地下2階の収蔵倉庫に保管してある資料の数は圧巻で、近代的な自動化書庫の設備も一見の価値があります。毎月第3水曜日に「館内見学会」を開催しているので、興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。

館内見学会➡京都府立図書館HP「館内見学会」

  • 日時 毎月第3水曜日 14時~(所要時間約40分)
  • 集合場所  府立図書館2階ナレッジベース (事前申込み不要)
  • 写真撮影は禁止
  • 担当職員が案内

私が「館内見学会」に参加したときは見学者10名ほどで、子供の頃に母親に読んでもらった絵本や、小学校・中学校で使っていた教科書も見つけました。

そして、驚いたのがガラス越しに見た自動化書庫設備で、まるで立体駐車場のリフトのような機械が自動で目的の書庫を探し出し、1階の受付カウンターまで運び届けるところでした。(SF映画のワンカットみたいです)

Automated library

写真:京都府立図書館HP

自動化書庫以外は集密書庫になっていて、手動で動かせる書庫と固定のものが入り交ざっています。地下2階ですが階高が6.2mもあるので、1つのフロアに鉄骨で2~3層の床が組んであります。

Dense library

写真:京都府立図書館HP

この他にも、貴重書庫といった保管場所があり、そこにはインターネットではお目にかかれない秘蔵の資料が保管してありました。まさに宝物ですね。

京都府立図書館とイチョウの葉

京都府立図書館のロゴがなぜイチョウの葉なのか? 気になったので調査してみました。

すると、イチョウの葉を本に挟むと紙魚(しみ)よけになるといわれているため、開いた本をモチーフにイチョウの葉を掛け合わせたデザインにしたそうです。そして、京都市立工芸大学の学生がシンボルマークと和文ロゴタイプを作成したとありました。

更に調査してみると、京都府立図書館の「図書館きょうと」39号(②)p.3に掲載の「コラム 府立図書館の銀杏葉マークと銀杏の木」で、「一般に銀杏は『葉を本に挟むと紙魚よけになるという』(図説花と樹の大事典)」との記述を見つけました。

また、これに対して、元禄8(1695)年に刊行された『本朝食鑑』(③)4巻「果部」(25丁裏から)では、「銀杏」の項で、本にイチョウの葉を挟む理由について以下のように述べています。

我が国では、昔から虫よけのためにイチョウの新しい葉を本にはさんでいるが、その理由は芸草(うんそう)に似ているためかと思われる。しかし、芸草には虫よけ効果のある匂いがあるが、イチョウの葉には匂いはないので、なぜはさむのか詳しくはわからない。

時間をかけて調査しましたが、結局のところ「京都府立図書館のロゴがなぜイチョウの葉なのか?」はよくわかりませんでした。はっきりしたのは、ロゴは京都市立工芸大学の学生がデザインしたという事実だけでした。

logo

シンボルマークと和文ロゴタイプ

Sontoku Ninomiya

二宮尊徳像

タイトルとURLをコピーしました