「夏越の祓(なごしのはらえ)」とは、今年の1月から6月までの厄を祓い、残り半年の無事を願う神事で、各神社では6月30日に「血の輪くぐり」や「人形流し」といった行事が行われます。
京都では、この「夏越の祓」の神事にちなんで、見た目も涼しげな三角形の和菓子、「水無月(みなづき)」を食べる慣わしがあります。
上の写真は、京都で130年以上の歴史がある和菓子の老舗、「仙太郎」の水無月です。
しかし、なぜ京都では「夏越の祓」の日に水無月を食べるようになったのか?
それは、平安時代の貴族が「夏越の祓」の際に氷を食べて暑気を払う習慣があり、氷室(ひむろ)と呼ばれる氷の貯蔵所から氷を運ばせていました。しかし、当時の氷は大変貴重なもので庶民が口にできるものではありません。そこで、考え出されたのが氷に似せたお菓子、「水無月」だったのです。
このことは仙太郎さんの「和菓子歳時記」に書かれていますので紹介します。
京都の氷室と水無月
仙太郎さんの水無月を買った際に包装紙に添えられる「和菓子歳時記」には、以下のように記されています。
夏越の祓
『みなづき』(水無月)
私共の丹波工場(製あん)の裏山には、氷室の跡地がある。その昔、冬の間に出来た氷を天然の氷室に枯草、雑木、藁等で覆い夏まで保存していた。ここが、謡曲「神吉の氷室」の舞台。
旧暦六月、夏のあつい盛りに氷を掘り出し宮中へと運び、夏の健康のため、氷のひとかけを食したという。しかし、何といっても当時、夏の氷はあまりにも貴重品。庶民は口にすることはおろか、目にすることもできなかった。
そこで誕生したのが「みなづき」。氷のかけらに似せた三角のお菓子。台は外郎で氷をあらわし、上には小豆を散らして魔除けの意とした。(豆が魔滅に通じる処から?)
六月三十日、夏越の祓の神事にちなんで、今なお京都の人が「みなづき」を食べるならわしには、このような歴史的背景がある。
「みなづき」を食べ、うっとうしい梅雨とわかれ、祇園囃子が聞こえるようになれば、京都はいよいよ本格的夏をむかえる。
——略——
仙太郎
そして最後に、お客様に教えて頂いたとして、「水無月」は水の無い月ではなく、陰暦では水の月、田んぼに水を引く必要のある月。すなわち「無」は「の」を意味する連帯動詞の「な」なのである。と書き添えられていました。
これを読むと、『平安貴族が氷室の氷で暑気を払う。そして、氷を口にできない庶民のために氷に似せた外郎(ういろう)を作り、上に魔除けとして小豆を散らして「みなづき」となった』といった「みなづき」の起源が分かります。
6月30日が「夏越の祓」で無病息災を祈願をして、7月1日から疫神怨霊を鎮める祭礼である「祇園祭」が始まることを思うと、京都の6月30日は特別な日なのかも知れませんね。
このような「みなづき」の歴史に思いふけながら、氷室の跡地に縁のある仙太郎さんの水無月を頂くのも乙なもので、ついつい人に教えたくなります。
仙太郎の「みなづき」
仙太郎さんの「みなづき」には台が白いものと、抹茶入り外郎(ういろう)の生地の2種類があり、双方とも上に小豆かのこをのせて蒸しあげられています。さすが、丹波大納言にこだわる和菓子店だけに、仙太郎さんでなければ味わえない小豆を使った「みなづき」です。
- 販売期間:5月10日~8月16日(店舗や年によって期間が異なる)
- 保存方法:常温
- 消費期限:当日
消費期限が当日となっているので、近くの店舗で購入してその日のうちに召し上がってください。