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用途地域変更による既存不適格の事務所を改築

建築物を造るには「建築基準法」を初め数えきれないほどの関係法令を守らなければなりません。そして、それらに精通して合法的に安全で使いやすい建築物を造るのが建築士の仕事です。

参考資料:詳しくは⇒建築法体系の概要(国土交通省)

今回は、建築士として「既存不適格」となった建築物を合法的に解決した例を紹介します。

クライアントからの相談

東京都にある自社ビルの建替えを建設業者に依頼したところ、その地域は現在「第一種中高層住居専用地域」になっているために改築は不可能といわれた。

その後、事務所を移転するように勧められ土地を紹介されるが、建替えを上回る費用が掛かる。それに創業地を離れるとなれば事業を継続していくのに不利なる。

既存の建物を改修して、このまま事業を継続しようとしても建築物の状態が悪いために改築以上の費用が掛かる。そして、改修の程度によっては建替えと同様に認められない場合もある。

これが相談の概要で、なんとも悩ましい状況でした。

現状の把握

クライアントの希望通り老朽化した自社ビルの建替えが可能なのか?対策を考える前に、「建築確認通知書」と「検査済証」の存在が重要なポイントになります。

今回の物件では、それらの書類が当時の「建築請負契約書」などとともに大切に保管されていました。

とりあえずは一安心。これらの書類がない場合、関係する行政に照会をかけるしか方法がなく、違法建築と判断された場合は手の付けようがなくなります。

「建築確認通知書」の中を見ると、建築当時は用途地域が「第二種住居専用地域」で「事務所」用途の建築が可能であり、現在は「既存不適格」となっていることが分かりました。

建築確認通知書と検査済証

「建築確認通知書(確認済書)」とは、建築しようとする建築物の計画(設計)が、建築基準法及び関連法令の規定に適合していると判断された書類で、「建築してもいいですよ」といった許可書のような役割もあります。

「検査済証」とは、建築物が完成した後に検査を受けた証明であり、建築基準法及び関係法令の規定に適合した建築物であることを証明する書類です。

既存不適格

「既存不適格」とは建築した当時は建築関係法令に適合していたが、法令等が改正されることにより法令に適合しなくなった建築物のことで、違法建築ではありません。

用途地域

「用途地域」とは、住みやすい市街地を形成するために「住居系」「商業系」「工業系」の3つに分類し、さらに13種類の用途に分けたエリアのことを指します。

法律では「都市計画法第9条」で地域の概要。「建築基準法第48条」及び「法別表第ニ」で、その地域に建てられる建築物などの詳細が定められています。

解決の方法

「既存不適格」は所有者(建築主)に非があるわけではないので「建築基準法第48条第及び第14項」の「ただし書き」による建築許可を得ることにしました。

「ただし書き」による建築許可は、特例であるため関係法令に精通した建築士でなければ考え付くのも難しい解決法になります。また、特例で建築許可を取るには時間と労力がいるうえ、必ず良い結果が出せるとも限りません。

建築許可

建築許可とは、建築基準法の規定中で原則的に禁止されている事項について、周囲の環境を害することがないと認められるとき、あるいは公益上やむを得ないと認められるときなどに特定行政庁(区長)が許可するものです。

許可は、特例のため、その近隣住民に対する影響が大きく、利害関係も相反することが多いため、その公正を期するうえで建築審査会(第三者機関)の同意が必要になります。

建築基準法では特例を認めるための条文として「ただし書き」があります。

第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、田園住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域又は工業専用地域(以下「用途地域」と総称する。)の指定のない区域(都市計画法第七条第一項に規定する市街化調整区域を除く。)内においては、別表第二(か)項に掲げる建築物は、建築してはならない。ただし、特定行政庁が当該区域における適正かつ合理的な土地利用及び環境の保全を図る上で支障がないと認め、又は公益上やむを得ないと認めて許可した場合においては、この限りでない。

建築基準法第48条第14項

建築許可申請

詳しく説明すると、それだけで100ページを超えてしまうので大まかな説明だけにしておきます。そして「建築許可」ということがあることを分かって頂いて、もしもの時は信頼できる建築士に相談することをお勧めします。

建築許可申請の概要と手順

  1. 事前相談
    ・調査依頼書の提出
  2. 現地調査・回答
    ・建築内容に関する協議
    ・申請手続き・スケジュール・手数料に関する協議
    ・条例、要綱に基づく届出、協議
    ・近隣説明および同意
  3. 許可申請
    ・必要に応じて「路上協議会」「公聴会」
  4. 建築審査会
  5. 消防同意
  6. 建築許可
  7. 建築確認申請・計画通知
  8. 建築工事
  9. 完了検査

以上が特例を使った許可申請の流れです。

今回の行政の対応は、既存建築物が違法に改造されていない限り「建築審査会」は同意するだろうといった見解で、新しく建てる「事務所」の規模が既存の建築面積を上回らない範囲で許可する姿勢でした。

行政上の手続きよりも大変だったのは「近隣説明」と「同意」です。要するに「建築審査会」の同意以前に近隣に説明して問題が起こらないようにしておくことです。

近隣説明の範囲は敷地境界線から「建築物」の高さの2倍の範囲とされていたので、それなりの世帯数に「同意」を取らなければなりません。

今回の場合は、クライアントの会社で対象となる地域住民に対して説明会を行い無事に「同意」を取ることができました。これは日頃から近隣住民と会社の関係が良かったために快諾して頂けたからだと感心しました。

結果

相談から約1年半掛かりましたが、建築面積200㎡(延べ床面積約400㎡)の2階建て事務所が完成しました。敷地が既存の事務所の倍以上あったので、駐車場の部分に新しい「事務所」を建築。建築中は既存の事務所が使えるように仮使用もできたことで、予定していたより経費が抑えられたことも大変喜んで頂けました。

まとめ

我々、建築士は建築の技術者であり建築関係法令を熟知した法律のプロでもあります。そして、法律というものは世の中の統制を計るために作られたもので、誰かを貶めるものではありません。不正がない限り一企業や個人が不利益を被ることがないように救済措置もどこかに存在しています。

今回のように、「建築不可です」と言われれば「仕方がない」と諦めないで、信頼できる建築士など、建築関係法令に詳しい人に相談してみて下さい。

建築許可に関して詳しい説明は省いていますが、「こんな法律がある」ことだけ分かって頂ければいいと思っています。

そして行政では、建築士などの専門家でなくても当事者であれば親切に教えて頂けるので、まずは御自分で相談に行かれるのも良い解決策になります。