建築士が持つべきものは「権力と金」に屈しない「品位・品格」である

建築士が最も大切にしなければならないものは「品位・品格」です。その理由は、社会の中で人々の生命・健康・財産を守るという業務を「独占」して行うという重要な役割があるからです。これには強い倫理観が求められることから「品位・品格」の保持が不可欠になるのです。

建築士の業務は、単に建築の設計するだけではなく、建築関連法令を熟知したうえでプロジェクトに関わるすべての企業をまとめ上げるといった重要な任務も背負っています。それが監修業務や設計監理といわれるもので、適格な倫理的判断が求められます。

しかし、多くの企業や人が集まると様々な考え方が交錯するため、倫理的判断に狂いが生じる可能性があります。また、これと同時に建築士が属している企業などの組織の都合や立場によって生じる問題もあります。

これらの問題の根源は、企業の経営に関する問題(権力と金)である場合がほとんどでるため、それぞれの立場を理解しつつ、冷静かつ倫理的に判断しなければなりません。

この問題に関しては、これが正解といった答えはなくケースバイケースでの判断が必要となります。悩ましいことですが、これを解決できる建築士になるためには自身の「品位・品格」を高め保持するほかはないのです。

倫理的判断

建築士法に明記されている「品位」

建築士の根拠法である『建築士法』に「品位の保持」について明記してある条項があります。なぜ、このようなことまで法律で規定しなければならないのかと疑問に思ったのですが、よく調べてみると「品位の保持」が義務付けられているのは建築士だけではなく、医師・弁護士・税理士・社会保険労務士など、いわゆる「士業」と呼ばれる根拠法には同様の記述が認められました。

これの意味するところは、社会に大きな影響を与える「士業」は如何なる状況であっても、倫理的判断に基づいた業務の遂行が求められるからです。要するに倫理に反してまで「特定の企業や個人の利害で判断してはいけない」ということです。

ー建築士法(抜粋)ー

  • 法第2条の2
    建築士は、常に品位を保持し,業務に関する法令及び実務に精通して,建築物の質の向上に寄与するように,公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。
  • 法第21条の4
    建築士は,建築士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。
  • 法第22条3
    建築士会及び建築士会連合会は、建築士の品位の保持及びその業務の進歩改善に資するため会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。

建築士の独占業務と社会的影響

建築士に許される「独占業務」というものも『建築士法』に記述されています。一級建築士・二級建築士・木造建築士によって取り扱ってもよいとされている規模に違いがありますが、主な業務は「設計」と「工事監理」です。具体的には、「建築工事契約に関する事務」「建築工事の指導監督」「建築物に関する調査または鑑定」「建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理」など多岐にわたります。

なぜこれらの業務が社会的に影響を与えるかといえば、業務全般に「法令を遵守し安全で快適な建築物を提供する」といった、すべての要件が含まれているからです。

一般の人たちが、これだけを聞いても理解しにくい部分もありますが、2005年の『構造計算書偽造問題(事件)』を例にとると、建築士の独占業務がどれだけ社会的に影響を与えるかは明らかです。

ー構造計算書偽装問題―

構造計算書偽造問題は、2005年11月17日に国土交通省が建築設計事務所の一級建築士によって、地震などに対する安全性の計算を記した構造計算書が偽造されていたことを公表したことに始まる一連の事件である。

一連の耐震偽装事件は発覚当初は耐震強度偽装が組織的ともみられ、建築会社及び経営コンサルタント会社による組織的犯行と当初報道されていたが、公判では「一級建築士による“個人犯罪”」と結論づけられ、建築士に懲役5年、罰金180万円の実刑判決を言い渡した。

事件の概略は以上の通りですが、実際に損害を被ったのは、この一連の事件で建築されたマンションやホテルを購入または入居した人達で、建て直しなどの費用を計算に入れると、その被害額は数百億円以上と想定できます。

品位・品格とは

建築士法に記述してある「品位」とは何なのか。辞書によると、「品位」とは「人に自然に備わっている人格的価値であり、「品格」とほぼ同義とされていますが、建築士が保持しなければならない「品位・品格」とは少し違うのではないかと思っています。それは、自然に備わっているものではなく、常に倫理に照らし合わせて判断をおこなっているうちに備わって来るものであると考えられるので、英語表現の”dignity”(尊厳・品格・威厳・貫禄・威信という意味)がシックリときます。

品位・品格を高める

建築士の資格を取得し、それなりの経験を積むと「何が正しいのか?やってはいけないこと」は自然と身についているはずです。しかし実際には、正しい倫理的判断ができていたとしても、それを正義として押し通すには、信念に基づく行動力が必要になります。

それは何かといえば、いかなる相手が要請してきても、関係法令や倫理的にみて「できないこと」や「やってはいけないこと」は明確に根拠を示し理解を促すことにあります。

これが大変厄介なことで、相手は建築の素人でありながら経営のプロである場合が多いため、しばしば過剰な論争になることもあります。しかし、そこで折れて流されてしまえば信念が崩れ去り、その後倫理的判断すらできなくなる可能性があります。

品位・品格を高めるということは、様々な知識を得て正常な倫理的判断をすることが根本的に必要になりますが、それをやり切るだけの信念を持たなければ意味をなさないということです。(力なき正義も悪になりうる)

品位・品格を妨げる要因

品位・品格を妨げる要因には外的要因と内的要因があります。

外的要因は主にプロジェクトがもたらす利益とそれに対する費用が原因だと考えられます。すなわち経営判断による「対費用効果」から派生する問題であり、建築士が考える建築業務とは関係のないようにも思えますが、周り回って建築に関わる費用に影響を及ぼすのは間違いありません。

内的要因は建築士本人の内面である考え方にあります。その中でも特に気をつけたいのが、自身が持つプライドで、その持ち方を誤ると「品位・品格」を失ってしまうので注意したいところです。

プライドのあり方

プライド(pride)とは、英語由来の表現で、誇りや自尊心、自負心、矜持、高慢、思い上がりなどを意味します。要するに「自分に自身を持つ」ということです。

しかし、自信の持ち方が「高慢」であったり「思い上がり」であったりすると身勝手な思い込みだけが強くなり高慢な人間になってしまいます。

建築士は建築に関する知識が豊富で、一般的な人とは違うと感じるのは当たり前ですが特別な人間ではありません。この辺を自覚しないと、特権を得たような感覚になり倫理的判断に間違いが生じます。

これはプライドを持つなという意味ではなく、プライドを持つ方向を考えろという意味であり、その方向は「業務においては常に倫理的判断に基づいている」という自覚に対するプライドなのです。

最後に

建築士の「品位・品格」の保持を妨げる要因である外的要因については、幾つかの事例を挙げて解説したいところでしたが、深く掘っていくと批判を主に置いた記事になるので書くことを控えました。

ただ言えることは、大きなお金が動くあらゆる業界においては、少なからず問題を生じさせる人達が関わりをもってくることがあるので、巻き込まれないように細心の注意が必要です。

したがって、所属する組織・クライアントなど、自分自身に直接影響を与える人達は自身で厳選しなければなりません。そこには信頼の置ける本当の仲間がいます。

「綺麗ごとを言うな」と批判する人もいますが、実際にこれらを曖昧にした結果、人生を失った人もいるのは確かなことです。

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